Aloha! 治る力

治る力を生かした医療を求めてハワイに移住して来た医師のブログ

カッピングの効果とリスク

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リオのオリンピックでマイケルフェルブスさんの背中と腕にカッピングのマークがクッキリしていた事が話題になりましたね! 私たちのクリニックの同僚たちとも仕事の合間にカッピングがこれで有名になるねっと話していました。

 

カッピングは東洋医学の治療だと思われていますが、紀元前1550年にエジプトのPapyrusに体から異物(foreign matter)を取り除くためにカッピング治療をしていたという記録があるくらい大昔の治療法で、その後ギリシャ、ヨーロッパ、アメリカと広まり、18世紀にはバスハウス(お風呂屋さん、銭湯のようなところ)やドクター、散髪屋さんなど、広く行われていたのだそう。旧ソビエトユニオンでは20世紀まで行われていました。

東洋と西洋ではカッピングの目的が少し異なっており、東洋医学ではカッピングは滞っている気をちゃんと流すための治療と考えられており、鍼灸のツボにそってカップをつけています。昔の西洋医学ではカッピングで悪いものを表面にだしたり、あとは悪いスピリットを体の中から出す治療と考えられていました。

 

 

カッピングはあたためたカップを皮膚にあてると起こるカップの熱が皮膚を吸引するしくみになっています。カップの直径が大きいほど、その吸引力は強く、円形の吸引カップの中央部ほど皮膚が上に引っ張られます。皮膚を切開して血液を吸い取る「ウェットカッピング」と皮膚を切開せずに吸引力をあてる「ドライカッピング」があります。スポーツ選手たちは、筋肉の痛み、筋膜ほぐしなどのために「ドライカッピング」をされていると思われます。

 

では、カッピングにより、実際にどんな生理的な変化が起こるのでしょう? カップの中で吸引されて引っ張られている組織は、皮膚、皮下組織、筋膜などです。皮膚の中の毛細血管が極度に拡張し破れる事で、局所に炎症が起こり、それで免疫が活性化されたり、血流をよくしたり、筋膜をリリースが起こるというセオリーや、鍼灸のツボに沿って治療を行う事で、血管を収縮拡張が起こり、神経伝達物質、enkephalinなどがリリースされ、痛みのゲート(門)がコントロールされる事で、痛みに効くのだというセオリーなどなど文献に記されています。韓国での調査によると、実際にカッピングは首、肩の痛みなど骨格筋の症状緩和に治療として行われる場合が96%だという事です。医学の世界で信用性が高いとされているRCT (Rondomized Controlled Trial)ランダム比較試験が3つ報告されており、いずれもコントロールとして比較の対象のヒーティングパッドなどの通常治療に比べるとカッピングの方が疼痛を減らす効果が高かったとされています。

もしも、わたしが患者さんから、診察中に「カッピングやってみたいんですけど」と聞かれたら、カッピングは大抵は安全な治療ではあるけれど、カップを当てた部分が充血し赤く腫れたりする副作用がある事やその他の感染症などのリスクを説明し、カッピングにも禁忌がある事を伝え、その患者さんにそういった禁忌があるかどうか、患者さんの皮膚の状態、その他の疾患などを考慮した上で、患者さんが治療したいと思っている症状について病歴、身体所見を取り、それが何によるものであるのかをまず診断をしてから、例えばそれが筋肉の痛みなのであれば、その他の保存的治療であるカイロ、鍼灸運動療法、投薬治療、メディカルマッサージ、ディープティッシューマッサージ、などの治療法のリスクと効果を比較してその方の個別の症状、診断に最も適している治療をおすすめすると思います。このブログサイトは一般的な健康情報を提供するものであり、個別の診察をするのは不可能なので、個別の問い合わせには医学上、法律上応じられませんが、文献によりカッピングの禁忌、注意点、副作用などを以下にまとめましたので、これを参考にかかりつけのドクターに相談されるとよいと思います。

 

カッピングの禁忌:妊娠、生理、転移があるガン、骨折、そして深部静脈血栓のある部分や、脈を触れる動脈の部分、怪我などで皮膚が損傷している部分、日焼けしている部分、打ち身の部分などにはカッピングをしてはいけないそうです。これもカッピングにより皮膚が盛り上げられて毛細血管が傷ついてしまうと感染症や出血、血栓が新たに出来たり、血栓が他に飛んでいったりしてしまいそうな条件だからだと思えば納得がいきますね。

その他の注意点:20分以上の長い時間やあまりにも強い力でカッピングの吸引が起こると皮膚が皮下組織から剥がれてしまったりするリスクもあります。また特別な症例としては、自家用飛行機の機内でカッピングを受けた男性が背中にたくさん水ぶくれが出来た症例(気圧の影響があったのではないかと思われています)。

 

カッピングによって火傷が起こるのは
(1)施術者がカッピングの内側にアルコールや水分を過剰に使用してしまった場合

(2)アルコールを入れている容器を誤って倒してしまい、アルコールが溢れてしまう

(3)コットンや紙とアルコールから作った火でカッピング容器を温め、そのアルコールが完全になくなる前にカップを皮膚に当ててしまう。
(4)30分以上など長い時間カップを当てている。

(5)小児、高齢者など皮膚が高温に耐えられない場合
などの場合に起こるリスクが高くなります。


また、カッピングにより少量の血液がカップに溜まる事があるので、治療クリニックで血液や体液から感染するB型肝炎C型肝炎エイズなどの感染防止のためにカッピングをどのように消毒しているかどうか(紫外線などで)を確認し、また自分の皮膚が健康であるかどうか、肌荒れ、怪我などないかどうか確認して安全に治療を受けられるとよいと思います。

 

わたしのクリニックのマッサージセラピストによれば、オリンピックの選手のカッピングは主に筋膜リリースを目的にされているのだろうとの事でした。筋膜リリース、筋膜の健康と全身の健康についての関連性については、これまた、最近興味深い新たなサイエンスが分かって来ているので、わたしも自分の筋膜のセルフケアーを充実させるために、色々取り組み始めたところです。それについてはまたいつかお話したいと思います。

 

参考文献:

Evgeni Rozenfeld et.al. (2016) "New is the well-forgotten Old: The use of dry-cupping in musculoskeltal medicine" Journal of Bodywork &Movement Hterapies (2016):20, 173-178

Jong-In Kim et.al (2011)"Cupping for Treating Pain: A systematic review" Evidence Based Complement Alternat Med: (2011):2011:467014 Published online 2011 Jun 23 doi:10.1093/ecam/nep035