Aloha! 治る力

治る力を生かした医療を求めてハワイに移住して来た医師のブログ

アメリカの保険会社のカラクリ

今日は、鍼の学会の初日。終わりに、プレセプターの先生たちがどのように鍼治療を一般診療に組み込まれているのかについて語り、保険がどう絡んでくるのか、どうやってクリニックを切り盛りしているのか、などなど色々質問やディスカッションが行われました。

 

今の保険請求の仕組みは、ひょっとしてこの国の医療をダメにしている原動力なのかもしれません。なぜなら、患者さんが普通の診療に来られて、一般の診療ー(例えば血圧のマネージメントや糖尿のマネージメント)をやった時に、たまたま腰を痛めたりして、痛いので鍼治療もしてほしいと言われてそれをした場合に、患者さんとしては「楽になりたいし今日せっかくクリニックに来ているので鍼治療も一緒にやってほしい」しドクターとしても「楽になるなら時間が許す限り治療をしたい」と思っているのですが、その診療のカルテに

 

通常診療のコーディング + 鍼治療のコーディング

 

を二つともつけてしまうと、保険会社は二つついたコーディングの安い方しか払ってくれないのだそう。そもそも同じ日に同じ患者さんを二度診察してはいけないし、二つのことを同時にやってはいけないのだそう。

保険診療では、通常診療は大抵80ドルくらい、鍼治療はほんの30ドルくらいしかドクターに払ってくれないので、ドクターオフィスとしては両方やってしまうと80ドルは来ずに30ドルがくるっていう損失を追うことになってしまう。なんで80+30にならないの〜? 両方やったのに〜? と思うのですが、実際にそうなのだそう。

現在鍼治療を診療に取り入れておられる先生たちの対応は分かれてました。

1 通常診療のみにして、翌日鍼治療に来てもらう

2 両方やって、でも鍼治療をカルテに記載せずに普通の診療の報酬を得る (その場合、鍼治療でコンプリケーションが起こった場合にどうするの?やった治療を記載しないなんてメディカルリーガルにはどうなのよ?)

3 通常の慢性病のマネージメント+鍼治療を両方やって、正直に両方コーディングをつけて損失をかぶる(オーバーヘッドが払えず廃業のリスクを追うので稀な時に限る)

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私たちドクターはどうすればいいのでしょう?

 

もちろん、大抵の方は1にするでしょう。 そんな時に患者さんから「どうしても!」とお願いされるほど辛いことはありません。元はといえば保険会社の作っている仕組みのせいだからです! 「患者さんはプリプリに怒って帰られた」そう。保険会社に対しての怒りですが、目の前にアンハッピーな患者さんがおられるのもとっても辛い事。

 

このような保険会社のカラクリはアメリカ医療の影の部分、そしてこれからもきっと変わらないであろう影の部分です。私の意見では手間暇かかった治療は全て報酬されるべき!!でも保険会社が儲けをあまりにもガッツリとってしまうこのアメリカ医療ビジネスのあり方は、患者さんにとっても不便で不満足なものだし、私たち医療のスペシャリストにとっても、痛がっておられる患者さんを目の前になんともやるせない気持ちになってしまいますし、一日に何人も短時間診療をして数で稼がないとクリニックをやっていけない、生活していけないような悪循環のスパイラルへの入り口にもなってしまってます。

 

私の勤務する政府の病院も、保険会社が支払いするシステムなので、同じことです。以前、政府の予算削減のために私たちも週に1日無給のお休みを取らされたフォーローを経験しましたが、保険会社からの採算が合わないような診療になってしまうと、そのようにスタッフを減らされたり、勤務時間を減らされたりするため、結局患者さんにとって不便を作り出してしまう。

 

「保険会社がそういっているのだといって患者さんにご理解していただき翌日来てもらう」、「だから私は保険診療はもう何十年も取ってないし、これからはメディケアからも手を引く」、「患者さんは、自分が選ぶんだ、誰でも受け入れてしまうとやっていけない、バーンアウトになってしまう」。色々な意見が出ました。アメリカの慢性病の多さ、一人一人にかかる医療費の多さ、保険のペーパーワークの大変さ、そして保険会社の報酬のからくり。アメリカで医療のスペシャリストとして生き延びるためには、色々な苦労があるのだな〜と思いました。そんな真っ只中で、これから「誰も受け持ちたがらない」ような患者さんに溢れてしまうであろうアメリカ、そしてそんな中でバーンアウトしてしまう医療のスペシャリストたち。どうやってこの国の国民の健康を支えていけば良いのだろう?

 

必要な治療を必要な時にできるような保険の仕組みもなく、鍼治療を追加すると収入減につながってしまうような医療ビジネス体系が保険会社をより一層パワフルにしていっている。そう!患者さんのためにとドクターがやる同時治療する事で、ドクターが保険会社からペナルティーを受けてしまうんです。「患者さん中心の医療」ではなく「保険会社のマネーメイカー」としての医療が根付いているアメリカ。クレイジーです!こんな世の中で一番大切なのはやっぱり予防して健康でいる事です!

 

イメージはグーグルイメージからお借りしています。